空手研究室
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・稽古の基本的考え
・技術と体力
・筋力増強方法
・筋力増強方法2
・筋力増強方法3
・柔軟性向上方法
・柔軟性向上方法2
・突きの力学


(中年空手稽古の基本的考え)

 思い切って道場に入会し、最初の稽古が終わるとまずは体中が筋肉痛になります。これは若者だと翌日には症状が出ますが、歳を取るごとに症状の現れが遅くなり、翌日に「おお、どこも痛くない。我ながらタフだなぁ」なんて喜んでいると、3,4日後になって凄い筋肉痛になったりします。
 この症状が遅い人ほどダメージを回復するのに要する時間が長いと考えていいようです。
 空手の稽古でうけるダメージは大きく分けると二つあります。一つは筋肉のダメージです。今まで大して使っていない筋肉を使いまくったのにくわえて、日常生活では考えられないような強い動きを空手は筋肉に要求します。更に、空手では日常生活では有り得ないほど関節を広げてしまいます。関節が開けば筋肉は引っ張られます。これも筋肉にダメージを与えます。
 次ぎに、衝撃によるダメージです。空手は簡単に言えば殴る蹴るの練習です。蹴られれば痛いし殴られればやっぱり痛いです。寸止め系空手でも、多少蹴りや突きが体に当たりますし、相手の突きや蹴りを払いのける(受け)ときには当たります。したがってこうしたダメージもあるわけです。
 ダメージが回復しないうちに新たなダメージをうけるようなことが重なれば、どこかを完全に痛めてしまう可能性が高くなります。痛めてしまったためにしばらく稽古を休まなくてはならないという状況になれば、余計上達が遅くなります。ですから、ダメージを回復できるだけの休息をとることを考える必要があります。
 それに、実は「トレーニングはやればやるほど効果が出る」というのは誤りで、筋力トレーニングでは適当な休息をとる方がトレーニングの効果があがるという科学的な実験結果も出ているのです。これを超回復といいますが、これは別の項で説明します。
 したがって、無理なく稽古することは怪我が無く安全であるという以外に、論理的に稽古方法を組み立てれば、稽古の効果を上げる結果にもなるのではないかと思います。
 さらに、昔は「水を飲むとバテる」とか、「練習中に水を飲むなんて甘い」などという事が言われ、炎天下の中で水も飲まずに倒れるまで稽古したりという事がどんなスポーツにもありましたが、あれは完全な誤りでしょう。もしもそんな苦行のようなことをいまだに行っている指導者がいたとしたら、違う指導者の元へ移るべきです。
 夏に空手を始めた僕は非常に体力に心配があったのですが、適度に休息しながら水を補給したら滝のように汗をかきましたが、意外にも苦しくありませんでした。水は体調を整えるために不可欠な要素です。欠乏させてはいけません。
 ただ、給水は汗をかいてからするのではなく、30分から1時間前に適度に水分を蓄えておく方が効果があるようです。胃袋に入った水が体全体に行きわたるには、それだけ時間がかかるということでしょうか。
 とにかく無理はしない。無理なく体に適度な休息を与えながらやる。中年で空手の稽古を始めようとする人にはこれこそが必要な基本的な考えかただと思います。

まとめ
「稽古は無理をせず、適度な休憩と適度な給水」

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(技術と体力)

 稽古と単純に言ってもその内容はいろいろあります。僕が入門した現空研でも他の道場の話を聞いても大体、
1 柔軟体操
2 基本の突き蹴り打ち受け
3 移動稽古
4 約束組み手
5 自由組み手
 の順番で行われいるようです。
 これらの稽古を如何にしたら効率的に上達するのか。それを考えてみたいと思います。
 毎日道場で稽古しているような人は別ですが、僕のように週に一度となると家での稽古と道場での稽古をどう組み合わせたら良いかが問題になります。
 もちろん上にあげたような稽古メニューは道場主が考えることですからこれはこのままとします。しかし、このニューでやったとしても何に力を入れるかで稽古の効果は変わってくるはずです。
 結論から言いますと僕は、家では体力作りを重点的に行い道場で技術面を重点的に稽古する事が効率的だと思います。
 稽古の性質は大きく2つに別れるそうです。それは、筋肉や内蔵などを鍛える「トレーニング」と技術を習得する「プラクティス」です。
 トレーニング効果はトレーニングを中止すると最初の状態に戻ってしまう「可逆性」がありますが、プラクティスの方は中枢神経系に定着して失うことがないというのです。まぁ、全然ないかというと僕はちょっと疑問に思っていまして、「失いにくい」という事じゃないかと考えますが……。
 例えば筋肉トレーニングの結果得た腕のモッコリ筋肉は、トレーニングをやめるとどんどん元に戻ります。しかし、自転車に乗っていた人は何年も乗らなかったからと言って乗れなくなったりはしませんから、そういう違いがあるということのようです。これは何となく納得できます。
 したがってこの説を支持するとすると、毎日のように出来る「トレーニング」を家でやり、道場では技術的な「プラクティス」に力を入れるのがベターではないかと僕は考えています。
 それに、「プラクティス」の方は自分が黒帯になるまでは変な癖が付かないように、ちゃんとした指導者に見てもらいながらやる方がいいという面もあります。
 
まとめ
「道場ではテクニックのプラクティス、家ではパワーのトレーニング」

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(筋力増強方法)

 高校生の頃、「空手の黒帯は腕立て伏せ100回出来る」なんて言う噂があって、「腕立て伏せの回数=強さ」みたいに思っていたものです。体育の授業でも回数にばかりこだわっていた記憶があります。つまり、回数がすべてだったのです。
 ところが複数の本を読んでみてわかったのですが、実は回数をターゲットにするのか、それとも負荷をターゲットにするのかでは鍛えられる筋肉線維が異なるらしいです。
 たとえば空手で強力な突きを出したいとした場合、鍛えたいのは「弱くて長続きする力(持久力)」ではなく、「瞬発的な強い力(瞬発力)」です。ところが腕立て伏せ100回をすでに出来る人がこれを毎日やるのは前者の力を養成することになり、後者を強化する意味はあまりなく、逆に基礎体力とか持久力を鍛える目的で意味があるそうです。
 筋肉の線維は3種類に分類できるらしく、FG,FOG,SOの3つです。
 最初の一文字目は筋肉の動作する速さを意味します。FはFASTの頭文字で、「速く動く筋肉」を意味し、SはSLOWで「ゆっくり動く筋肉」を意味します。
 二文字目以降は酸素の必要の有無を差しています。OはOXIDATIVEで「酸素を必要とする筋肉線維」、GはGLYCOLYTICで「糖を分解して動く筋肉線維(酸素を必要としない筋肉線維)」を意味しています。
 したがってFGは無酸素で速く力強く動く筋肉線維です。SOは遅く弱い力で動く筋肉線維で、酸素を必要としています。FOGは2つの中間の性質を持ちます。
 さてそこで、どんなときにどの線維が活躍するかなのですが、何十回も連続して出来るような運動ではFGの線維は使わないそうです。これはSOの線維を使うというのです。軽いダンベルを何十回も持ち上げたり、軽いジョギングがそうなのでしょう。FGを使うためには最大筋力の80%以上を出すような強い力を使う時だけで、負荷をかけて数回しか連続して出来ないような運動です。今スポーツジムなどでは、12回〜15回程度しか繰り返せない負荷が最も理想的だと指導しています。思い切り力を出したとき、息を止めてしまうものですが、このとき酸素を必要としないで短時間だけ働くFGが活躍しているらしいです。
 ですからどんな動きを期待するかによってどんなトレーニングが必要なのか、それをきちんと計画して行うことが効率的なトレーニングになるのではないかと推察されます。
 猫足に耐えられる筋力を付けるなら負荷の軽いスクワットを多回数行い、蹴りの力を養成するにはバーベルをかついで負荷の高いスクワットを行うというような具合です。
 それから、もう一つ大事だと言われているのが休息です。筋力トレーニングを行って疲れた筋肉を休めると「超回復」と言って休息した結果筋力が休息前よりも強力になるという現象があるそうです。この時さらに負荷を大きくしてトレーニングすると筋力はどんどん上がっていくというのです。
 つまり、毎日トレーニングするのではなく、休息日を入れてあげる方が筋力はアップするというそんな現象があるようです。
 ただし、どれくらいの負荷をかけてトレーニングするべきか、どの程度の時間やるべきか、それくらいの間隔でやるべきか、そして休みはどれくらい入れるべきかというのはいろいろ説があって、これが絶対に正しいというものがありません。しかし、それほど大きな食い違いがあるわけでもありません。
 たとえば、10回程度しか持ち上げられないダンベルを左右交互に限界まであげるというのを5セット行うというのを毎日やる。そして日曜日だけは休む。こんな調子でしょうか。
「苦しいことをすれば鍛えられる」。これは間違えとは言えないですが、どこを鍛えるのかという目的を持ち、それにふさわしい方法を使うことが効率的なトレーニングになりそうです。
 これはある程度自分でもやってみましたが、毎日腕立て伏せを合計で100回やっていたときよりも、10キロのダンベルを左右10回ずつ上げる運動を3セット行う方が格段に力がつきました。1ヶ月で10キロなら50回でもOKなってしまい、今は17.5キロに上げています。これもすぐに20キロまで行くでしょう。

まとめ
「筋力トレーニングは目的により方法が異なる」

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(筋力増強方法2)

  筋力増強法1で、筋力トレーニングは毎日やって週に一日だけ休むというのを書いたのですが、ある本に超回復には72時間かかるので、トレーニングは3日に1回でいいと書いてあったのです。したがってそれにチャレンジしてみました。その結果レポートです。
 超回復とは、10回程度の反復しかできないような負荷をかけての筋肉を限界まで使ったトレーニングを行った際に筋肉がパンパンになって、それが回復したときに筋力が向上すると言うことなのです。
 つまり超回復が起きたときにまた限界までトレーニングするという繰り返しをすることによって、筋力を階段を上がるように向上させようと言う筋力増進法が効率的だと言われているらしいのです。
 そしてトレーニングとトレーニングの間隔をどれくらい開けるといいのかと言うことで、先日72時間という答えを得てそれを実行してみたわけです。
 結論から言うと、ダメでした。インターバルが長すぎます。
 結果的には1日半くらい腕が張ったような感じがしていました。たぶんこの張りが消えたところが超回復のタイミングではないかと思っています。そしてそのままトレーニングを追加せずに翌日になると筋肉はすこし減ったような感じがします。だから、休息が長すぎると感じました。インターバルは一日か二日半程度でいいように思います。
 これは想像ですが、きっと超回復に72時間もかかるほど筋肉を追い込んでいなかったのだと思います。どうしても1人でそれも家の中で空いた時間を見つけてトレーニングすると甘えもでますしいろいろな制約もあります。仕事のことを考えると無理を出来ないという面もあるでしょう。ですから結局はとことん筋肉を追い込むほどのトレーニングにはなっていなかったために一日ちょっとで回復してたのではないかと思うのです。
 結局僕は自分のいろいろな制約を考えて、まずは現状程度のトレーニングで、最高でも中一日しか開けないでやることとしました。時間があれば毎日やるし、なければその日は休むというように、ある程度フレキシブルにやることによって、長続きすることの方が重要ではないかという思いもあってのことです。理想は理想、現実は現実です。
 理論は理論として、自分の環境でのやり方を考える必要もありますね。色々と個人差もあるのですから。

まとめ
「徹底的にやるプロフェッショナルなトレーニングでの理想値が限られた環境で行う自主トレにそのまま適用できるとは限らない。」

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(筋力増強方法3)

 筋力増強法として、二つの方法を試してみました。
 即筋を鍛えるためには、15回程度しかできない負荷を与えてやるのがいいということは、前にも書きました。しかし、これには次の二つの方法があると思います。

1.15回しかできない負荷をセットし、その負荷で3セット行う。この際、疲れてくる2,3回目は15回はできず、8回、5回と回数が減ってくる。
2.15回しかでききない負荷で3セット行う。2,3回目は疲れてくるので、負荷も落としながら行う。

 この二種類を実験してみたところ、筋肉が太くなりやすいのは後者であると結論しました。これは、ジムのトレーナーの話とも一致します。
 ジムのトレーナーがいうには、後者の方が筋肉がもっこりになるが、前者の方がパワーは増すのだそうです。ただし、こういう理論はどんどん変化しているので、確実とは言えないとのことです。
 僕の実験ではパワーについてまでは不明です。
 前者、後者を目的にあわせてうまく使うとよいそうですので、試してみてください。

まとめ
「負荷のかけ方を工夫するだけで、効果は変わってくる。」

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(柔軟性向上方法)

 空手をやるには普通の人にはないような柔軟性が必要です。高い蹴りを簡単に出せるようになるには
股割などの柔軟トレーニングが必須です。
 中には「高い蹴りができないので」と足を高く上げることを捨てている空手家もいますが、多くの空手家は無理なく高い蹴りをしてみたいと思っていることでしょう。

 ストレッチのやり方には大きく分けて2つあります。ひとつが動的、そしてもうひとつが静的です。
 動的なストレッチとは、はずみをつけるストレッチです。1,2,3とはずみをつけて、3回目に思いっきり伸ばすというような方法です。中年の皆さんなら小学校から体育の時間はすべてこの方法でのストレッチだったでしょう。
 そして静的なストレッチとははずみをつけることなく、一定のテンションをかけて筋を伸ばすやり方です。
 動的なストレッチというのは気軽にやってますが、実はあのはずみが現在のばすことのできる限界を簡単に超えてしまい、筋に大きな負担をかけてしまうので、怪我の原因になります。また、無理に筋を伸ばすので筋は自らの破断を恐れて逆に収縮するという現象が起こるそうです。つまり無理に伸ばすと逆に縮んでしまうわけです。

 静的ストレッチは、たとえば前かがみになって腿の裏を伸ばすとき、勢いをつけて床に手のひらをつけるのではなくて、両手を床に向けてだらりとたらし、上体の重みだけで筋を伸ばします。要は簡単に伸びるところから、ほんのちょっとだけテンションをかけます。痛いのと気持ちいいのとの間くらいです。顔が捻じ曲がるようではいけません。
 これをやってみると、手の先がだんだんと床に近づいていくのがわかります。これは動的のときのように無理に伸ばすのではなくて、筋のほうが延びる許容範囲を自分でひろけているというような感じです。「もうちょっと大丈夫そうだな」と思っているわけですね、筋君が。このストレッチはあまりやった気にならないのですが、結果的にはかなりの速さで筋が伸ばせます。
 もうひとつ例を示すと、前後に足を開いてアキレス腱を伸ばす運動がありますが、このときリズミカルにかかとを上げて下ろすのが動的で、かかとを下ろしたまま上体を前に少しずつ出してテンションをあげていくのが静的です。

 静的ストレッチを手助けするコツが2つあります。1つは呼吸法です。
 静的ストレッチをやりながら、息を深く吸います。そして、ゆっくりとはきながら、全身の力を抜くようにします。すると、筋もふわーっとのびていきます。
 もうひとつが筋肉に力を入れてから、力を抜く方法です。息吹をするときのように、ストレッチしようとしているあたりの筋肉に力を入れて締めます。「うーーん」と唸って力を入れてみてください。そして抜きます。すると、筋がまたふわーっと延びます。
 さて、この二つを組み合わせてみましょう。息を吸いながら筋肉に力を入れ、そしてはきながら脱力していきます。そう。息吹の逆ですね。息吹は息を吸うときに脱力し、吐くときに体を締めますから。
 先ほどの前かがみのストレッチの場合は体の重みで伸びていきますが、開脚の場合いは自分で開いていかないといけません。
 まず、簡単に開けるところまで足を開きます。そして、その位置から腰を少し押し出して、ちょっとだけ筋が痛い程度にします。これでさっきの脱力を繰り返していると、筋は全く痛くなくなります。そうしたら、またちょっとだけ腰を前に出します。この繰り返しで無理なくのばしていきます。勢いをつけたり、誰かに無理やり引っ張ってもらってはいけません。

 これを毎日やっていると、ある日は凄く開くのに、ある日は開かなかったりします。そうすると焦ってしまって、無理に開いて痛めることがあります。開く日も開かない日もありますが、それでも平均的に徐々に開いています。昨日はここまで開いたから、そまでは簡単に開くはずだと焦らないで、その日の調子に合わせて行います。
 痛めてしまったら数日休みましょう。
 僕の経験だと、筋を痛めているとストレッチしてものびません。治るまで待つと、その間ストレッチしていなかったのに凄くのびていたりします。
 とにかく、筋がびっくりしないように、安心させてちょっとずつ伸ばしちゃいましょう。
 

まとめ
「勢いをつけず静的にちょっとずつストレッチしよう」

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(柔軟性向上方法2)

 テレビで、こんなシーンを数回見ました。
 まず、タレントの柔軟性を計る。例えば開脚の開き具合とか、前屈でどこまで手が伸びるかです。
 そして次ぎに、その日の話題の不思議なことをタレントにします。例えば、赤鉛筆で手の爪に線を書くとか、指にあるものをはめるとか。
 そうするとあら不思議、もう一度やってみたら柔軟性が驚くほど増している。「おお、これはミラクルだ!」みたいな結論になって、それをやって見せたオヤジは、得意げな顔をする。爪に赤鉛筆で線を入れただけで柔軟性が増すなんていう、アホな話にタレントたちは「すごーい」と感嘆するわけです。もちろん、これはインチキです。
 試しに、一度限界まで開脚して数秒そのままにしてから脚を閉じ、リラックスした後にもう一度開脚してみてください。1回目を大幅に越える開脚ができます。前屈だって同じです。
 もっと効果的なのは、逆の力を与えることだそうです。開脚した状態でだれかに脚をおさえてもらい、開脚とは逆に閉じる力を脚に加えてください。その後、開脚をしてみるとあら不思議。脚はパッコリ開きます。
 この理論は、普段のストレッチでも応用できます。開脚であれば、一気にどんどん広げようとせず、一度少しの間開いて、それから脚を閉じてリラックスし次から本格的に広げていくと、効率的です。長時間やるときも、途中で一度休憩を入れ、その間に別の関節をストレッチしたりして、それからまたやると、さっきよりもずっと楽に開きます。 

まとめ
「ストレッチは、緊張、弛緩を繰り返すと効果的」

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(突きの力学)

 突きの力学は、僕が今まであれこれ考えながら空手をやっていて出した、一つの結論です。この内容は実験もして確かめたことですし、自信がありますが、一般的に解説されている内容ではないことを、あらかじめお断りしておきます。

 組手で接近戦になり、バンバン突きの打ち合いになると、だんだん足を開いてくる人がいます。顕著な人は大股開きになって必死に突いている。
 しかし、相手が上級者ならこれを見逃しません。すぐに内側から脚をはらわれてしまうし、もしも禁じ手とされていなければ、金的蹴りを要望しているようなものです。
 なぜそうなるのか・・・・・・。これは、力学的に説明できます。そして、力学的に考えると対策も考えやすくなります。
 突きは、上半身の回転を伴います。回転によって出していると言っても過言ではありません。右の突きは上半身が左に回転し、左の突きは右に回転します。
 しかし、力学的に考えると、体の均衡をとりながら回転するということは、この回転力と逆の回転力が体のどこかに発生していなくてはならないことは明らかです。
 例えばヘリコプター。屋根の回転翼がグルグル回っています。ヘリコプターが前を向いたままになるためには、あの回転と逆の回転力が働かなくてはなりません。そうでなければ、ヘリコプター自体がグルグル回ってしまうのです。ですから、ドラえもんの「タケコプター」は理論的にあり得ないものです。さて、本体が回らないために、ヘリコプターの後部には小さなプロペラがあり、逆の回転力を発生させています。大きな回転力に小さなプロペラで対抗できるのは、プロペラの位置が重心(回転の中心軸でもある)から離れた場所にあるからです。そうすればテコの原理(回転モーメント)で、小さな力でも大きな回転力となり、バランスがとれます。ヘリコプターのしっぽが細かったりトラス構造で軽量化されているのは、しっぽが長くても重心が後に来ないようにするためです。この回転力のバランスが崩れるとヘリコプター本体がぐるぐる回ってしまい、揚力を失って墜落です。
 空手の突きも同じです。上半身の回転を伴うために、そのままバランスをとって正面を向いているためには逆の回転力がなくてはいけません。そのために空手家は二つの力を使っています。
 まず、腰の回転です。上半身の回転と逆の回転をすることで、バランスをとっています。試しに、足で踏ん張れないように、脚を閉じて立ち、力強い右中段突きを繰り出してみてください。下半身が逆に回ると思います。また、下半身をうまく回せば回すほど、強い突きが出せることがわかるでしょう。
 つぎに、地面と足との摩擦力です。足を広げ、踏ん張っていれば強い突きが出せます。足を広げているので、重心から足までは距離があり、足に加わる力は回転力となって、上半身とは逆の回転力を与えます。したがって、足を広げれば広げるほど、強い突きが出せます。これが、どんどん足が開いていく理屈です。
 上記の1,2の力を組み合わせて突きを出しているわけですから、下半身の回転がうまく使える方が足をあまり開かなくて済むというわけです。だから、腰の回転をうまく使えない初心者ほど足を広げてしまうことになるのでしょう。
 この力学から、他のことも分析できます。
 例えば、左右の突きを連打するとき、だんだん脇が開いてフック気味になることがあります。脇が開くと腕の位置が重心から遠くなるため、より回転力が強くなります。ですから、脇を締めた方が足を踏ん張らなくて良いとも言えるでしょう。
 それから、腰の回転を反動として使うことを考えると、左右の連打は楽ですが、左左右というような場合は極めて難しい。腰の回転も左左右という具合に回転するわけですが、一度左に回した腰を上半身の反動もなく戻し、まだ左に回して次ぎに右に回すわけですから、大変です。これを三発とも全力でやろうとすると、足の摩擦を利用しなくてはならないかも知れません。そうでなければ、左突きのどちらか一つはフェイントにしないと無理かも知れません。
 つまり、左右左右という突きに比べ、左左右右という突きは実は高度な技であることがわかります。
 この力学を実証するのに簡単な方法があります。一度、氷の上に乗って突きを出す実験をしてみたことがあります。踏ん張ることがまったくできない状態です。すると、腰の回転を使う以外に突きを出せないことがわかります。
 何冊かの空手の教本を読みましたが、このことについては、「突きを出す際には、腰が上半身と同じ方向に回る順回転と、逆に回る逆回転の二種類がある」という記載が一冊だけあったのみです。それにも力学的なことは書いていなかったので意味がわかりませんでしたが、これは踏ん張って突くのか、腰を利用して突くのかの2種類があります、と解釈できるわけです。
 これらをヒントに、回し蹴り、前蹴りについて考えても面白いと思います。

まとめ
「腰の使い方がうまいと、突きが出しやすい」」

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